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~学生寮の部屋~ 「………!」 『こいつぁ……おでれーた』 エンヤホテル跡の階段を上って来たタバサとデルブリンガーは、目の前に広がる光景を見て目を丸くする。そこは何処をどう見てもこの二人、いや一人と一本が日々の生活を営んでいた、トリステイン魔法学院の学生寮の部屋そのものであった。 『……オレ達、帰って来たのか?』 「違う……」 半信半疑で呟くデルブリンガーの言葉を、タバサは即座に否定する。 エンヤ婆を倒しただけでハルケギニアに帰って来られるなど、絶対に考えられない。 タバサが始めて出会ったDISCのスタンド、エコーズAct.3も言っていたでは無いか。 「この道はレクイエムの大迷宮に至る為の通過点」であると……。 それに先程聞こえてきたあの「声」。 あの声が語る内容は、タバサを次なる試練へと誘う言葉では無かったか。 つまり、先程戦ったエンヤ婆は門番だったのだ。 タバサが次の試練に辿り着けるかどうかを見張り、彼女にその資格があるのかを見極める為のガーディアン。それならば、エンヤ婆を倒したことでタバサは次の試練に挑む為の資格は得たはずだ。そしてこの部屋の何処かに、次の試練―― 恐らくレクイエムの大迷宮へと至る道があるはずだ。まずは、それを探さねばならない。 「まだ途中。だから行かなくちゃ……」 『まだどっかに行くアテがあるってーのか?』 「うん。そうしないと、帰れない」 『……確かに、オレっちだって元の世界に帰りてえけどよ』 ふう、と嘆息してから、デルブリンガーはいつもとは違う落ち着いた口調で言葉を続ける。 『タバサ。あんた、オレに会うまで、今までずっと一人で戦って来たんだろう? そんなボロボロになっちまうまでよぉ。無理すんな……とまでは言わねえけど、もうちっと、その、なんだ。タマにはもうちょい能天気になっちまってもいいんじゃないか?』 タバサはすぐに何かを言い返したりはしなかった。 デルブリンガーが自分の身を案じて言ってくれていることは、はっきりと伝わってくる。 でもそれは難しい、ともタバサは思う。 自分の暗殺に失敗した為に、今度は合法的に惨死させるべく―― 憎むべき伯父一族から命を落としかねない危険な任務を次々と押し付けられ、傷だらけの戦いの日々を余儀なくされた自分に、果たしてそんなことが出来るのだろうか。 ましてや、この世界に来てからと言うもの、次から次へと襲い掛かる敵との戦いの連続だった。 少しでも気を緩めてしまったら、その瞬間に死ぬ。 それこそタバサは今までの15年間の生涯で、そのことを嫌と言うほど思い知らされていた。 きっと、デルブリンガーにもそのことはわかっているのだろう。 真実かどうかは知らないが、彼もまた、伝説に語られるような遠い昔の時代から、激しい戦争の中で生きてきたのだと言う。そうで無くても、彼という存在が武器として作られた以上、 戦いの中こそが彼の生きるべき世界であり、その為に自分と同じ世界で生き続けて来たタバサの痛みが、心の内がデルブリンガーにはわかるのだ。 そして、だからこそ。 今ここでタバサが決して立ち止まったりはしないだろうということも、わかってしまうのだ。 でも、それでいいとタバサは思う。 戦いの中で傷つくことは辛いことだけど、自分のことを理解して、心配してくれる相手がいる。 自分の側に立って、本当に守ろうとしてくれる人がいる。 それで充分なのだ。 自分のことを想ってくれている人達がいることを、確かなものとして実感出来るのだから。 今握り締めているデルブリンガーや、自分のことを「友達なんだ」と言ってくれた キュルケ達トリステイン魔法学院の皆、使い魔のシルフィード、この世界で出会ったエコーズAct.3らDISCのスタンド達だってそうだ。 そして自らの命を賭けて、自分のことを守ってくれた母―― 彼らは皆、今のタバサにとって掛け替えの無い大切な存在だった。 だから、無理はする。だけど絶対に負けたりなんかしない。 ハルケギニアに帰って、もう一度会いたい人達が、今のタバサには沢山いるのだから。 「……ありがとう」 『へ?』 「心配してくれて、ありがとう」 出来る限りの精一杯に感謝の気持ちを込めて、タバサはデルブリンガーに答えた。 『お、おう。なんかお前さんにそんなコトをハッキリ言われると照れちまうな…… ま、ともかくだ!これからはオレっちも一緒だ。 オレの力が必要な時は、遠慮なくガンガン使ってくれよな!』 「うん」 「――残念ですけど……」 突然のことだった。部屋の隅から、タバサ達に向けて若い女の声が聞こえて来る 「………っ!?」 タバサは周囲にも注意を払いつつ、その意識を声の主の方向へと向ける。 装備DISC、そしてエネルギーが不足気味ではある物の、射撃DISC共に問題は無い。 体力的にも、後一度戦うだけの余裕はあるだろう。 問題は――そしてこれこそが致命的なことのだが、手持ちの発動用DISCがゼロであることだった。 装備DISCの性能に頼った力任せのゴリ押しは、下策だ。 その時置かれた状況に応じて、手持ちのカードを最大限に駆使しつつも、その消費は最小限に抑えて危機を切り抜けなければならない。 それはこの世界の探検に限ったことでは無い、戦いの常道の一つだった。 しかしエンヤホテルでの戦いは、全てのカードを切らねば勝利を掴めぬ程の苦しいものだった。 だからタバサは、今持っているDISCだけで出来ることを考えて、それを実行に移さなくてはならない。 「誰?」 顔を見せると同時に、残りのエンペラーとフー・ファイターズの銃撃を叩き込んでやる。 タバサは声の聞こえて来た方向に両手を向けながら、静かに聞き返す。 「ここではデルフさんの力も、完全には発揮出来ないんですよ」 敵意を向けるタバサの態度にさして動じた様子も無く、声の主は堂々とタバサ達の前に姿を見せた。 「…………!」 『なぬぅ!?』 タバサとデルブリンガーが、再び驚愕に目を見開いて―― 剣であるデルブリンガーはあくまで気分だけの話であったが、 ともあれ一人と一本は、その見覚えのある声の主の姿から目が離せないでいた。 「シエスタ……」 「ごきげんよう。ミス・タバサ、デルフさん。お元気そう……には、ちょっと見えないかも?」 赤黒い血の跡を残してボロ雑巾同然の服を着込んだタバサの姿を見て、彼女は苦笑いを浮かべる。 少なくともタバサ達には、その声も姿も、そこに立っているのがトリステイン魔法学院でメイドとして働いている平民の少女、あの平賀才人に一途な思いを寄せているシエスタ本人にしか思えなかった。 『ちょっとちょっとちょーっと待てよお嬢ちゃん!なんでアンタがこんな所にいるんだよ!? いや別にいてもいいのか?いやもう、とにかくオレ様スッゲーおでれーたぜ!』 「……ううん。多分、違う」 タバサは射撃DISCを撃ち込もうとしていた手を降ろしながら、デルブリンガーの言葉を否定した。 トリステイン魔法学院の学生寮に、そこで働くメイドの姿があるのは確かに不思議なことでは無い。 だがそれでも、それは現在目の前に広がっている光景に対する正確な回答とは呼べない無いだろう。 事情の飲み込めないデルブリンガーより先に、冷静に真実へと思い至ったタバサは静かに尋ねる。 「あなたも……やっぱり?」 「ええ、その通りです」 タバサの問い掛けの中身を察知して、シエスタはゆっくりと頭を縦に振った。 「ミス・タバサの仰る通り、私もまた、皆様が存じ上げているシエスタの“記録”に過ぎません」 この世界に存在する者は全て、何処か別の世界にある実在の人々の“記録”が形になっただけであると、タバサは以前エコーズAct.3から聞いたことがあった。 本当の意味でこの世界で「生きて」いる者は、タバサやデルブリンガーのような別の世界から迷い込んだ者だけであると言う。この世界が全て誰かの“記録”で出来ていると言うなら、トリステイン魔法学院やシエスタのようなハルケギニアの“記録”がここに存在していたとしても不思議では無いのだろう。 ――だが、それでも。 タバサはほんの僅かにではあるが、希望を持っていたのも確かだった。 これが本当の魔法学院なら、元の世界に帰って来られていたら、どれほど良かっただろうか、と。 『記録……って、どういうこった?お前さん、シエスタじゃねぇのか?』 「うーん。全く違う、と言う訳でも無いんですけど……」 事情の飲み込めないデルブリンガーの問いに、シエスタは困ったように首を傾げる。 「……そっくりさん?」 「双子でもいいかも」 「ドッペルゲンガー」 「近いかもしれませんね」 「リビングゴーレム……」 「あ、それはちょっとひどいですわ、ミス・タバサ」 『――わかった!わかったわかった!いや、本当はわかんねーけど、わかったコトにする!』 デルブリンガーが二人よりも寧ろ自分に言い聞かせるようにして、放っておけば延々と掛け合いを続けそうなタバサとシエスタ?の会話を遮った。 『あんたはシエスタ、それで決まり!いいんだよな、それで!?』 「いいと思う」 「そう思って頂ければ何よりですわ、デルフさん」 女性二人の了承を取り付けて、デルブリンガーはふう、と自分を納得させるように溜息をついた。 どうやらこちらの世界の住人らしいこのシエスタ2号は兎も角、同じ世界からやって来たタバサと同じ知識を共有していないのは辛い。自分も早く、この世界について詳しく知っておかねばならない。知らなかったから、この先結果としてタバサの足を引っ張ってしまった、では済まされないのだ。現在の自分の持ち主であるタバサが、如何なる状況においても全力以上の力を振るえるように、彼女の側でその身を支える。 それこそが、武器としてこの世に生を受けた自分の役目では無かったか。 心の中で新たに決意を固めたデルブリンガーは――そこでふと、あることに気付く。 『なあシエスタ?』 「はい?」 『さっきお前さん、気になるコト言ってたよな?』 「気になること……ですか?」 『ああ。ここじゃあ、オレの力を完全に発揮出来ないとか何とか……ありゃあ一体、どういう意味だ?』 「……………」 『おい、シエスタ?』 「――その話は後にしましょう」 これ以上話すつもりは無いとでも言いたげに、シエスタはゆっくりと首を振る。 『何だって。おい、オメエ、一体どういう……』 「まずは先にやらなくちゃいけないことがありますから」 『やらなくちゃならないコトぉ?』 「はい。ミス・タバサに、今のような御格好をさせておく訳にはいきません」 大真面目な表情で、シエスタはデルブリンガーの問いに答えた。 「お体を洗って、お召し物を変えなくては。そうしないと落ち着いてお話も出来ないでしょう?」 『ウーム……』 確かにシエスタの言うことも一理ある。 タバサがトリステイン魔法学院の生徒であることを示す制服とマントはボロボロに引き裂かれ、ドス黒く変色した血痕があちこちに染み付いている。 トレードマークの眼鏡はどう見ても使い物になりそうにない程にひび割れて歪んでおり、まだ幼いが綺麗に整った顔には、未だに乾き切らない自身の血で滑っている。 そんな彼女の姿はあまりに痛々しく、見るに耐えなかった。 無論、自分の能力云々の話も気にはなるが、今のタバサをどうにかしてやりたいとデルブリンガーが思っていたのも確かだ。 「もしミス・タバサさえ宜しければ、私が手伝わせて頂きますが……」 その部分のみ、シエスタは遠慮がちに口を開いた。 ハルケギニアでは貴族と平民の差は絶対だ。 平民が貴族の命令で多種多様な労働に励むのは当然のことであったが、貴族の身繕いまで平民の使用人が手伝う、という話はあまり聞かない。 それは家臣である平民の前で、貴族が肌を晒すなどもっての他だ、という貞淑な物の考え方である。 例外があるとすれば、かつて権力に物を言わせて無理矢理シエスタを引き取って慰み物にしようとしたジュール・ド・モット伯や、普段は未だに平賀才人を使い魔扱いしているゼロのルイズぐらいな物だろう。 ハルケギニアの平民として、貴族に対して畏敬の念を抱くべしと教えられて育って来たシエスタには、貴族であるタバサの意志を最優先に尊重しなければならないのだ。 そして、そんなシエスタと寸分違わぬ考え方を、タバサ達の目の前にいるシエスタの“記録”は出来るということだった。 『どうするよ、タバサ?』 「………お願い」 さして逡巡した様子もなく、タバサはシエスタの言葉を受け入れた。 『……いいのかよ?』 それはデルブリンガーが、未だに目の前のシエスタを疑っている為の問い掛けだった。 「いい」 『――わかった。アンタがそう言うなら、オレはもうなーんも言わねぇ』 「うん」 それっきり、デルブリンガーはタバサを信じて何も口を開かなかった。 タバサもまた目の前にいるシエスタの“記録”を信じてみることにしたのだ。 もし万が一、シエスタの言葉が自分を罠に掛ける為の物だったとしても、構わないとさえ思った。 トリステイン魔法学院に来てからの暮らしは、タバサにとって掛け替えの無いものだ。 そこでタバサは、愛すべき大勢の人達に出会った。 例えただの“記録”であっても、その中の一人であるシエスタのことを、タバサは疑いたくは無かった。 もう二度と、魔法学院の皆と敵味方に分かれて戦いたくなんて無かったのだ。 「それじゃあ、まずは……ポルナレフさん?ポルナレフさーん?」 『呼んだかい、シエスタ』 シエスタに呼ばれて返事をしたのは、ベッドの下から這い出して来た一匹の亀。 よく見れば、背中の窪みに豪奢な造りの鍵が埋め込まれている。 『おや、君達は……』 『こりゃおでれーた…亀が喋ってやがる……』 のそのそと歩いて来る亀の姿を見て、デルブリンガーが本気で感嘆した声を上げる。 『何を言うんだ、君だって剣なのに喋っているだろう。一瞬、アヌビス神かと思ったぞ』 『オレの世界じゃ喋る剣なんて珍しかねーんだよ。 アンタみたいに喋る亀の方がよっぽどレアもんだぜ?』 『いや、私は亀じゃない。私は――』 そこで声が途切れたと思ったら、亀の背中の鍵から半透明の影がせり出して来る。 影はやがて人間の男性の形を取って、タバサ達の前にはっきりとした姿を見せる。 歳の頃なら三十代半ばぐらいの、逞しい体躯をした男性だった。 深く刻まれた傷を隠すように、右の頬を半透明の面で覆っている。 「御紹介しますわ、ミス・タバサ。 こちらはポルナレフさん、この亀さんの中で暮らしている、ええと――」 『ジャン・ピエール・ポルナレフだ。まあ、この亀に憑く幽霊だと思ってくれて構わん』 説明に窮するシエスタに、ポルナレフと呼ばれた男はそんなフォローを入れる。 『始めまして。ミス・タバサ……と言ったかな、それにそこの喋る剣君』 『オレ様の名前はデルフリンガーだ。よーく覚えといてくれよな!』 『そうしよう。君達とは長い付き合いになるかもしれないからな。 それでシエスタ、私を呼んだのはこの二人を紹介する為かい?』 「いえ、ちょっと亀さんの中に用がありまして。入ってもいいですか?」 『なるほどな。わかった、好きにしてくれ』 「では、失礼します」 そう言いながら、シエスタはポルナレフと亀の方に近付いて行き、そして―― 「!」 『おおっ!?』 驚愕する一人と一本を余所に、シエスタは亀の背中の鍵に吸い込まれるように消えて行く。 『なっ、なんだぁ!?これで何度目かは忘れちまったが、オレ様またしてもおでれーたぞ!』 「………スタンド」 驚きの声を上げるデルブリンガーとは対照的に、驚きから醒めたタバサは冷静に指摘する。 『その通りだ、タバサ。この亀のスタンドは、自分の体内に生活空間を作り出すことが出来る能力だ。背中の鍵をこいつの甲羅にハメ込んでやると、 スタンドを発動するように訓練されているらしい……私がかつて“死んだ”時も、こいつのスタンドにしがみ付くことで、今もこうして生き続けているんだ。 と言っても、私もそうしたポルナレフという男の“記録”に過ぎないがな』 「……だから、幽霊?」 精神だけが亀の中で生き残っているということと、何処かの世界で実際に起きたことの“記録”。 ポルナレフは二重の意味で、自分のことを「幽霊」と言ったのだとタバサは今、気付いた。 『そうだ……私自身もスタンド使いだったが、ある戦いの中でそれはもう失われてしまった。 この世界の何処かには、DISCとして残ってるかもしれんが。そして、その時に生まれたのが――』 「――お待たせ致しました」 ポルナレフを押し退けるような形で、亀のスタンドの中からシエスタが戻って来る。 両手一杯に抱えているのは、大小二つの桶、その中には何枚かのタオルに、今タバサが着込んでいるのと全く同じデザインをしたトリステイン魔法学院の制服、そして正方形の箱らしき物体が乗せられている。 『お、シエスタ。……一体全体何なんだい、そりゃ?』 「本当でしたら、貴族の方々が使われている浴場の方まで御一緒するべきなのでしょうが、ここにはそのようなものはございませんので……仕方がありませんので、こちらでミス・タバサのお体を拭かせて頂くことに」 『って、ちょっと待ってくれよ。風呂が無いって、そりゃまたどーいうこった?』 この部屋を出て、学生用の浴場まで行けば良いだけの話では無いか。 そう言いたげなデルブリンガーの言葉を遮るように、シエスタは説明の為に言葉を続ける。 「この世界にあるトリステイン魔法学院の“記録”は、この部屋しかありません。 この部屋を一歩でも出てしまうと、すぐにでも別のダンジョンへと繋がって行ってしまうのです。 ここだけがミス・タバサ、あなたにとって安全な拠点として、この世界に用意された空間なのです」 よいしょ、と荷物を床に降ろしてから、シエスタは厳かな口調で言った。 『なるほどな……だから風呂にも入れねーってのか?』 「はい。そして私とポルナレフさんは、この部屋でミス・タバサの御力になるように命じられました。 それがこの世界での、私達の役目なんです」 それが自分達の「運命」なのだ、とでも言いたげにシエスタは答えた。 今、目の前にいる彼女は、姿も、口調も、何から何までシエスタそのものだった。 だが、今言ったその言葉だけで、目の前の彼女が“ハルケギニアのシエスタ”とは違う存在だと言うことを、はっきりと証明していた。 平民の身分でありながら――貴族であるあのゼロのルイズに立ち向かってまで、自分が恋した平賀才人に強い思いをぶつけ続けている、あのシエスタとは。 そして、目の前のシエスタ達にそうした役割を与えている存在。それこそが、恐らく―― 「レクイエム……」 『そうだ。だが、それが全てでは無い』 タバサの呟きにに答えたのは、亀のスタンドから顔を出しているポルナレフの方だった。 『レクイエムは確かに、この世界を形作っている存在の一つだ。だが、その先には――』 「さあ、お話はこれぐらいにしましょう」 再びポルナレフの言葉を遮って、シエスタはぱん、と手を合わせて軽い音を立てる。 「と、その前に。デルフさんはポルナレフさんと一緒に、亀さんの中に入って頂きます」 『なぬぅ?』 あまりにも予想外だったシエスタの言葉に、デルブリンガーは素っ頓狂な声を上げる。 『おいシエスタ、そりゃー一体どういう意味だ?』 「いいですか、デルフさん」 ずいっ、とシエスタはタバサの持つデルブリンガーの方に顔を近付けて、言葉を続ける。 「貴族の方の――いいえ、レディの方の湯浴みを覗き見るなんて、許されないことです。 ミス・タバサが身支度を終えられるまで、デルフさんには亀さんの中で待って頂きます」 『しかし、んなコト言われてもなぁ……オレ、剣だし』 「ダメですよ。レディが身繕いを終えられるまで待つのは、殿方のマナーではありませんか」 『ムムムム……』 シエスタにめっ、と叱られて、デルブリンガーは言葉に詰まった。 見上げれば、タバサも困ったような表情で二人のやりとりを見つめている。 『……わーった、わーったよ。待っててやるから、なるたけ早めに済ませてくれや』 「ありがとうございます、デルフさん」 観念した様子で、デルブリンガーはシエスタの言う通りにすることにした。 「では大変失礼ですがミス・タバサ、デルフさんを少しお借りいたします」 「うん」 タバサは手に持っていたデルブリンガーをシエスタに渡し、それを受け取ったシエスタは再び亀の中へと姿を消して行く。 待つことしばし。 デルブリンガーを中に置いて来たシエスタが、部屋に帰って来る。 「大変お待たせ致しました、ミス・タバサ。 僭越ながらこの私が、ミス・タバサの御召し換えを手伝わせて頂きますね」 「………水」 「はい?」 「水は、どうするの?」 シエスタは先程からしきりに「湯浴み」という言葉を使っていた。 だが部屋の中を見返してみても、この部屋に水を供給出来そうな手段は思い当たらない。 魔法の杖さえあったなら、自分が魔法を使って水を「練成」することも出来ただろう。 だが、それはこの世界に来る前に、ハルケギニアに置き忘れてしまっていた。 平民のシエスタでは無論「水」系統の魔法など使うことなど出来はしない。 ハルケギニアにおいては、魔法を自在に扱える能力こそが、「貴族」と呼ばれる為に必要な唯一絶対の条件であり、あの「ゼロのルイズ」がそんな二つ名で呼ばれて蔑まれて来たのも、今まで満足に魔法を使いこなせた時が無かった為なのだ。 しかしシエスタはそんなタバサの疑問に、大丈夫です、と答えて、桶の中に入れて来た荷物を選り分ける。そして最後に、桶の中から正方形の箱を取り出して、タバサにもはっきり見えるように脇へ抱える。 「私も――そして今のミス・タバサも、魔法を使うことは出来ません。ですが」 シエスタは無造作に箱を開ける。その中には、色とりどりのDISCが何枚も挟まっている。 「この「形兆のDISCケース」の中にあるDISCを使えば問題ありません。 ここに水を生み出すことも、それをお湯に変えることだって出来ますから」 そう言ってシエスタは、ケースから黄金色に輝く装備DISCを一枚取り出して、頭に差し込む。 「ウェザー・リポートのDISC!」 そのままシエスタが発動させたDISCの能力によって、大きな桶の中に収まる範囲にだけ水滴が落ち始め、やがて水滴は雨のように勢いを強めながら降り注いで行き、桶を満杯にした所で止まる。 「水」――いや、「天候」を自由に操るスタンドか。 タバサはシエスタが発動させたDISCの正体に思い当たっている間に、シエスタは二枚目の、今度は能力発動用のDISCを取り出して、桶一杯に敷き詰められた水の中へと放り込む。桶の中の水はジュッ、と燃えるような音を立てながら、 一瞬にしてその温度を高めてお湯へと変わっていた。 水が熱湯になるDISCが力を使い果たしてボロボロと崩れ落ちて行くのを全く気にせず、シエスタは小さい桶にお湯を移して温度を確かめ、これでよしと言う風にタバサの方を向きやる。 「さあ、準備が出来ましたわ、ミス・タバサ。こんな簡単なお風呂で申し訳ございませんが、お湯が冷めてしまう前にお召し物をお脱ぎくださいませ」 戦闘に使う以外にも、DISCにはこうした使い方がある。 タバサは「こちらの世界の」シエスタの生活の知恵に感心しながらも、彼女に促されるままに、まずは顔に掛かっている眼鏡を外した。 自分ではあまり気にしていなかった物の、確かに酷い壊れようだった。レンズに走るヒビのせいで視界が悪いな、ぐらいにしか思っていなかったが、これでは二度と使い物にならないだろう。 元の世界に帰るまで外すことになるかもしれないと思いつつも、タバサは手に持った壊れた眼鏡を部屋の隅のベッドの上に置く。 そして同じように外したマントを眼鏡の側に放り出し、上着のボタンに手を掛ける。 一つ、二つ、三つ……タバサはゆっくりとボタンを外していく。 その度に、タバサの白く滑らかな肌が露わになっていく。 折れそうなくらいに細く、まだ幼さを残している物の、その身体は胸元から下まで女性としての柔らかい曲線をくっきりと宿している。スカートを外せば、繊細で脆さすら感じる程なのに、 どこか肉感的にすら見える、メリハリの利いたラインを引く純白の肌に覆われた脚が伸びている。 それまで自分の身に纏っていた衣服を次々に外して行ったタバサは、最後に下半身を包み込んでいる下着に手を掛ける。 迷いの無い所作で、ゆっくりと素肌を晒して行く姿を目の前で見せられると、湯浴みを手伝うなどと言い出したシエスタの方が、逆に気恥ずかしくなる程だった。 「……これでいい?」 「あ――は、はい。ではミス・タバサ。少しの間、失礼致します」 一糸纏わぬ姿のタバサに声を掛けられ、その姿に思わず見惚れてしまっていた自分の意識を取り戻して、シエスタはまず小さな桶に掬ったお湯に浸しておいた一枚のタオルを取り出し、自分の血で濡れたままのタバサの顔を拭い上げる。 タオルに赤い染みを移すような形で、タバサの顔から汚れが落ちて行く。 しばらくする内に、汚れに塗れたタバサの顔はいつも通りの美しさを取り戻していた。 「……ふう、お待たせ致しました。ミス・タバサ、次はこちらへ」 そのまま続いてシエスタに誘導される形で、 タバサは大きな桶の中に張られている湯の中にゆっくりと身体を沈める。 「はあ……っ」 適度な温度に調節されたお湯の感触が心地良い。 まるで、母の胸に抱かれるような安心感すら覚える。 本来なら自分に与えられる筈だった毒薬を飲み干して、心を傷付けられる以前―― その頃のタバサの母は、いつでも自分を優しく抱き締めてくれた。 そんな懐かしい思い出を、お湯の中でタバサは夢を見るような心持ちで思い返していた。 「ミス・タバサの髪、お綺麗ですわ」 湯の中で思う存分温まったタバサの身体を拭い、彼女の身体が冷えないようにと部屋の隅に置いていたマント以外の新しい制服を着て貰ってから、シエスタはお湯を含めたタオルを タバサの髪に絡めて、じんわりと滲んでいた髪の油を丁寧な動作でゆっくりと抜き出そうとする。 「ザ・サンのDISC」 タバサの髪にたっぷり水分を含ませた後で、シエスタはDISCケースから新しいDISCを取り出し、部屋の中に熱を帯びた発光体を生み出す。 そして先程と同じようにして、今度は別の乾いたままのタオルをタバサの頭へと滑らせる。 熱量を抑えて発動させたザ・サンの光と合わせて、程なくしてタバサの髪から水分が離れていく。 先程から自分の頭を刺激するシエスタの柔らかい手の感触が、タバサには心地良い。 タバサがこの世界にやって来てから、これほどまでに安らぐことが出来たのはこれが初めてであり、それは他ならぬこのシエスタがいてくれるからだ。 人の優しさは、どんな時であろうと心に染み入る程の強さを持っている。 それが人間を「黄金の精神」に目覚めさせるきっかけになって行くのでは無いだろうか。 どんなに気高い精神を胸に秘めていようとも、人は一人ではそれを見失ってしまうのだ……。 忘れてはならないとタバサは思った。 このシエスタの優しさを。共に戦うDISCのスタンド達の力を。ハルケギニアの大切な人々の思い出を。 例えこの先、どれほど苛酷な試練が待ち受けていようとも、 それを忘れない限り、自分の精神は決して砕け散ったりはしないであろう。 「――これでよし、っと」 その言葉と共に、シエスタの手が既に乾ききったタバサの髪から離れる。 勿体無いな、とタバサは心の中で思ったが、いつまでもシエスタに迷惑を掛けるのも気が引けたので、そのことは口に出さないで代わりにシエスタがここまでやってくれたことに感謝の気持ちを声に出して、言う。 「……ありがとう、シエスタ」 「いいえ、とんでもございません。こちらこそ、きちんと御力になれたかもわかりませんのに」 「ううん、平気」 タバサは換えのマントを身に纏いながら、もう一度シエスタにありがとう、と言った。 「うふふ。ありがとうございます、ミス・タバサ。それじゃあ、後は――」 まずこれだ、とシエスタは宙に浮かんだままのザ・サンの発動効果を解消する。 発光体がフッと消え去り、次にシエスタは先程タバサが外した眼鏡に視線を送る。 「やはりこの眼鏡ですね……う~ん」 「……無いの?」 「これと全く同じ物は、生憎と……こういう眼鏡ならあるのですが」 困ったような表情でシエスタが取り出したのは、確かに眼鏡には間違いなかった。 だが、やけにゴテゴテと派手な装飾の施されたそれは、レンズによる視力の矯正以前の問題で、到底タバサに似合うとは思えない代物だった。 「これは?」 「ミス・ヴァリエールが御実家から送って頂いたという眼鏡なんですが… 何でも、これを掛けて特定の方以外の女性をいやらしい目で見るとその気持ちに反応してそれを知らせるという効果があるとか……」 「………いらない」 「ですよね……」 タバサに即答されて、シエスタは申し訳無さそうにその眼鏡を懐へと収めた。 「ではやはり修理をするしかありませんね……少し勿体無いんですが、この際仕方がありません」 シエスタは失礼致します、と断わりを入れてからタバサの壊れた眼鏡を手に取り、もう片方の手で更に新しいDISCを自分の頭に放り入れる。 「――クレイジー・ダイヤモンドのDISC!」 ドラァッ!! シエスタが発現させたDISCのスタンドが、タバサの眼鏡に向けて全速力で拳を叩き付ける。 その瞬間、タバサの眼鏡が動き出したと思いきや、物凄い勢いで壊れる前の形を取り戻して行く。 やがてタバサの眼鏡は、傷一つ無い新品同様の状態まで回復していた。 「………すごい」 「本来の使い方とは少し異なるのですが、このDISCにはこういう使い方もありまして。 ――さあミス・タバサ、どうぞこちらをお掛け下さいまし」 シエスタから渡された眼鏡を受け取って、タバサはそれを顔に掛ける。 いつも通りの眼鏡の硬質な感触が、タバサの顔に伝わって来る。 眼鏡の修理は完璧だった。 そして今、新しい制服を着込んだタバサは、すっかり普段と変わらぬ姿を取り戻していた。 「――次にミス・タバサが行かれる場所は、レクイエムの大迷宮と言う場所です」 亀の中で待っていたデルブリンガーを引っ張り上げ、タバサはシエスタとポルナレフから次に挑まなければならない試練について説明を受けていた。 『レクイエムの大迷宮は、先程まで君達が潜っていたダンジョンよりも更に深い。 ……エンヤ婆を更に上回るような危険な敵も次々と姿を現すだろう』 何か嫌なことを思い出した、とでも言いたげにポルナレフが渋い表情で口を開く。 「また、今まで以上に数多くの制限や、逆により沢山のDISCやアイテムが発見出来るでしょう。 今更私が仰るまでも無いことですが、これらの全てを知り尽くし、使いこなさなければ、レクイエムの大迷宮の最深部まで辿り着くことは出来ないと思われます」 「……………」 テーブルの上に出されたシエスタの手作りケーキを頬張りながら、タバサは二人の説明を聞く。 真面目な話を聞いてる時に不謹慎だとは思ったが、実に甘くて美味しいケーキだった。 以前、タバサも元の世界の彼女からケーキの作り方を習ったことがあったが、今でもここまで上手にケーキを焼くことは出来なかった。 ただそれでも、夜中にこっそり練習していたのがバレた後、食べてくれた色々な人が「美味しい」と言ってくれたことは、嬉しかった。それが噂で広まって、一時期の間、学院中でケーキ作りが流行り出すことになったのは、タバサにも予想外だったが。 『今度はオレもタバサに付いて行くぜ!アンタ達がダメだって言っても、オレは行くからな!』 「はい、それは問題ありません。デルフさんも、どうかミス・タバサのお力になってあげて下さい」 力を込めて語るデルブリンガーに、シエスタはそう言ってこくりと頷いた。 『――っと、そこで思い出したんだけどよ』 「何でしょうか?』 『さっき言ってたよな?オレの力が全部は発揮出来ねえって……今度こそキッチリ説明してもらうぜ』 大真面目なデルブリンガーとは対照的に、ああ、そんな話もあったね、とケーキを味わう方に神経を向けていたタバサは、今になってようやくその話を思い出したのであった。 「わかりました。 ……単刀直入に申し上げますと、デルフさんが御力を使う為に制限がかかる、と思って下さい」 『制限?』 「回数制限……と言えばいいんでしょうか。幾らデルフさんでも、何時でも何処でも好きに御力を使っていたら、すぐにクタクタになってしまうでしょう? その為にデルフさんの御力を回復させられるアイテムも、ちゃんと用意されてますから」 『は?そんなモンがあるのか?』 「はい。本当は特別なんですが、御説明の為に一つだけお渡ししておきますね」 シエスタが今度取り出したのは、一冊の本。 表紙の絵を良く見れば、あのゼロのルイズにそっくりな絵が描かれている。 タイトルは、「ゼロの使い魔 4巻」。 それは時折、彼女の使い魔である平賀才人を指して呼ばれる呼称でもあった。 『フム……何かと思ったら、そんなコトかい。 よっしゃ、それならオレっちを使う時の判断はタバサに任せるとすっか。よろしく頼むぜ、タバサ』 「わかった。でも、あなたを剣として使うのはきっと無理」 一度頷いてから、タバサはゼロの使い魔の本を懐にしまいながら言った。 体術の心得も多少はある物の、本来の自分の戦闘スタイルは やはり魔法の力を操るメイジの物。剣を用いての戦いは、そもそも想定したこと自体が稀である。 まして、伝承に語られる「ガンダールヴ」の再来と称される、 デルブリンガーの本来の持ち主の平賀才人のように彼を扱うなど、タバサには到底不可能だ。 それはもうタバサに与えられた「役割」の埒外の話とすら言える。 手にした人間の能力や、触れた武器の性能を瞬時に理解する能力を持ったデルブリンガーも、そのことは良くわかっていた。だからこそ、彼もさして気にした様子も無く、鷹揚な口調で告げる。 『わかってるって。だけどよ、いざと言う時にはオレも何とかやってみるぜ。 この世界に転がっているDISCってヤツ……もしかしたら、面白い使い方が出来るかもしれねえ』 「うん」 自身有り気に言うデルブリンガーの言葉を信じて、タバサはこくりと頷いた。 「――じゃあ、そろそろ」 頬に付いたケーキのクリームを拭いながら、タバサは立ち上がってシエスタ達に会釈する。 そろそろ、自分達は行かなくてはならない。ここで平穏な時間を過ごすのはもう終わりだ。 レクイエムの大迷宮。ここを通り抜けて、自分は元の世界に帰らなければならない。 「はい。……レクイエムの大迷宮へは、こちらから行くことが出来ます」 シエスタがそれまでタバサが食べていたケーキの皿を置いたテーブルを動かすと、その下には既に見慣れた下り階段があった。この先がレクイエムの大迷宮に至る道。 シエスタから貰ったベルトでデルブリンガーを脇へと指しながら、タバサは自分の中から久方ぶりに鋭角的な緊張感が芽生えて来るのを自覚していた。 「行ってきます」 『じゃーな!世話になったな、二人とも』 「お気をつけて、ミス・タバサ、デルフさん」 シエスタとポルナレフをその場に置いて、階段を下るタバサ達の姿が見えなくなっていく。 『……行ってしまったな』 「はい」 『止めなくても良かったのか?この部屋の中で永久に暮らすことも、不可能では無かったろう』 「それは――無理ですよ。 あの方だって、それが出来たのに、この世界から出る為に何度も頑張り続けていたのでしょう?」 『……奴の精神の行き着く所は邪悪に過ぎん。本当なら、ここに永遠に封じられるべきだったのだ』 「だけど、自分が望んだ未来を手に入れる為に、決して諦めずに「運命」に逆らい続けた……。 目指す方向こそ違うけれど、タバサさんにも、そうした強い「意志」の光がある」 『そうだな……人は決められた「運命」を乗り越える為に生きている。 その結果がどうなろうと、最後まで「運命」に立ち向かっていく「黄金の精神」を彼女も持っているのだな……かつて私が出会った、若者達のように。 「運命」とは「眠れる奴隷」だ。彼女は今、それを解き放ちに向かったと言うことか……』 シエスタとポルナレフ。この世界が生み出した“記録”達は、 再び覚悟の道を歩み出したタバサが去って行った方向を、いつまでも見続けていた。 「ごきげんよう、ミス・タバサ。そしてようこそ、光り輝く「黄金の風」へ――」 シエスタの呟きを聞く者は、この部屋の中にはもう誰もいなかった。 ゼロの奇妙な使い魔「タバサの大冒険」 To be continued… 第3話 戻る
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タバサ スペック表 正式名称 タバサ 分類 機動戦用第二世代 用途 高機動戦闘兵器 所属 『資本企業』(オブジェクト製作元:ヤナギカゲ重工) 全長 160m 最高速度 880km/h 推進機関 静電気+四脚推進システム 装甲 1cm厚×1000層 主砲 下位安定式プラズマ砲×2 副砲 レールガン、コイルガン、レーザービーム砲 搭乗者 スバル=ドローレス その他 メインカラーリング:緑 解説 『資本企業』所属諜報機関『アルカナ』ランク7位『戦車』のエリートが搭乗する第二世代オブジェクト。 全体的なシルエットは巨大な球体の下に円形の静電気発生装置が存在し、球体左右からそれぞれ二本の脚を取り付けた姿である。 『正統王国』に存在するオブジェクト『ブライトホッパー』の戦闘データ、スペックを見た開発者の『逆側にも足を付ければ前後の高速移動が可能では』という単純な発想から生まれた機体。 そのため、一見すると足のある部分が『側面』のように見えるが実際は足のある部分の方が機体前部、あるいは機体後部である。 『ブライトホッパー』を真似ただけあってその機動力は折り紙付き。更に足を増設したことにより超高速で前進後退も自由自在、果ては同時に前後の足で地面を蹴ることによって『跳躍』すら出来る。 戦場をガゼルのように跳ね回ることが可能な本機であるが、脚のとりつけられた機体前後部分にはスペースの問題上、砲を積むことが出来ずその部分への攻撃は対処できないという弱点を抱えている。 コンセプト 超高速移動 特徴 巨大四脚で地面を蹴ることによる高速機動 弱点 機体前後からの攻撃に弱い
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~レクイエムの大迷宮 地下一階~ 『おでれーた。ホントにこいつぁ大迷宮って感じだぜ……』 腰のベルトに挿したデルフリンガーの感嘆の声に、タバサも無言で頷いて同意する。 この世界が生み出した“記録”によって再現されたトリステイン魔法学院の学生寮の床から、階段を下りたタバサとデルフリンガーを待ち受けていたのは、まさしくダンジョンであった。 薄暗く、見たことも無い構造物で作られた内壁。 今こうして立っているだけで、タバサの精神を押し潰してしまいそうな、息苦しい圧迫感すら感じる。 タバサが学生寮の部屋に辿り着く前に潜って来た行程など、ここに比べれば児戯に等しい。 そう思わせるだけの凄味が、この大迷宮の中から伝わって来るかのようだ。 『こいつぁマジで骨が折れそうだな……なあタバサ、これからどーするんだい』 「DISCを探す」 タバサは即答する。 各階層毎に様々なDISCやアイテムが落ちているのは、エンヤホテルまでの道程と変わらない。 そしてこのレクイエムの大迷宮には、今まで以上に数々のDISCや敵が待ち受けていると言う。 先程、タバサ達は学生寮の部屋でシエスタ達の“記録”からそう説明を受けたばかりだった。 ならば出来る限り、使えるDISCは回収しておかねばならない。 あのエンヤ婆との対決で、ほぼ全てのDISCを消耗してしまった自分は手数が足りない。 そんな焦りと不安も、今のタバサの中にはあった。 『あいよ。誰でも使える一回こっきりの魔法のDISC、ってワケだ。 もし元の世界に持って帰ったら、革命どころの騒ぎじゃねーな』 デルフリンガーが冗談めかして言った言葉には何も答えないまま、タバサは足を進める。 タバサ達がやって来た世界ハルケギニアは、「貴族」と呼ばれる人々が用いる魔法の力によって繁栄している世界だ。だからこそ魔法の力を扱うことの出来る貴族と平民では、「人間」としての扱いに天と地ほどの差がある。 無論、そうした貴族至上主義による社会制度に不満を抱いている者は決して少なくない。 だが平民による統治を掲げた革命が成功した試しは、ハルケギニアの歴史上 殆どと言って良いほど存在しない。何故ならば彼らは魔法という力を使うことが出来ないから。 魔法を持たぬ者の力など、それを持つ者達にとっては全く恐るるに足りぬ存在なのだ。 「平民」とは貴族に使役される者という意味では無い。 魔法の力を扱うことの出来ない「か弱い存在」を指して言う言葉なのだ。 そして魔法を扱える貴族は誰よりも優れた存在であり、だからこそ魔法の技術を研鑽し、より高い知性を以って力の弱い平民を守っていく必要がある。 そして、平民は自分達よりも優れた能力を持った貴族を敬わなければならない。 そういう考えで以って、ハルケギニアの人々は自分達の歴史を積み重ねて来た。 力を持つ者は、弱い者を守る為にその力を使わねばならない。 その理屈は、確かに正しいとタバサは思う。 だが、今のハルケギニアの人々は、あまりにもその考えに囚われ過ぎている。 そうした考え方は、魔法の力を行使出来る貴族特有の高邁な考え方ではあるまいか。 それだけで「貴族」が「平民」を支配する理由にはならない筈だと――今のタバサはそう考えていた。 貴族とは、魔法の力を扱えるという「能力」を持っているだけの、ただの人間に過ぎない。 魔法の使えない平民よりも、必ずしも貴族が高潔な人間であるという訳では無いのだ。 もし、貴族の誰もがその力の意味を自覚し、何よりもまず それを操る自らの精神を高めねばならないと言う考え方を得ているなら、 全ての貴族が誰よりも気高く、高潔であらんとする為の鍛錬を自らに課しているというなら―― 何故、自分の父は権力闘争の中で殺されたのだ? 娘である自分を守る為に、母が心に一生残らぬ傷を残すことになってしまったのは何故なのだ? 今そこにいる人間が持つ物、持たざる物は、全て「運命」が引き合わせた結果に過ぎない。 だが、それだけなのだ。 生きている人間の価値は、決して生まれ持った素質や能力だけで決定されるものではない。 人間は自分に与えられた「運命」を乗り越えなければならない。 例え歩むべき道がどれ程苛酷であろうとも、その先にある「正義の道」を目指して歩むことが、人間の「運命」なのだ。 魔法が使えないばかりに「平民」として蔑まされるべき平賀才人が、どれだけ気高い「誇り」を胸に抱いて自らの主人の側で戦い続けて来たのは何の為だ。 貴族として生まれながらも、満足に魔法を扱うことの出来ないゼロのルイズが、それでも決して挫けずに、遥かなる高みを目指して前へ進むことを止めなかったのは何故だ。 そんなルイズを口先ではからかいながらも、心の奥で常に彼女を心配し続け、 そしてまた伯父一族の手で両親を永遠に奪われたが為に、誰にも心を開くことを しなくなってしまったタバサにまで深い愛情を注ぎ続けてくれた親友キュルケの想いは何だと言うのだ。 この世界によって形作られただけの“記録”に過ぎないシエスタのが、 その優しさを自分に向けてくれたのは一体何だったのだ――。 彼らがその胸の内に抱いている、光り輝く「正義の心」に比べれば、ハルケギニアの人々が未だに己自身の存在意義として信じている「貴族」や「平民」と言った区別は、なんとちっぽけな物に過ぎないのだろう。 貴族の象徴とも言うべき魔法の力を行使する為の杖を失い、たった一人で この世界に放り出されたタバサには、それが良くわかる。 かつてタバサが抱いていた、一人で鍛え続けた魔法の力さえあれば、たとえ自分以外の全ての人間が敵であったとしても、それでも構わないという考えは――間違いだったのだ。 タバサがハルケギニアで出会った大切な人達だけでは無い、この世界で初めて出会って間も無かったと言うのに、自らの存在を犠牲にしてまでタバサの為に道を切り開いてくれたあのエコーズAct.3も、自分にそのことを教えてくれた。 そして一緒にこの世界まで飛ばされて来て、学生寮の部屋で自分の身を案じる 言葉を掛けてくれただけでなく、共に戦う為に今こうしてタバサの傍らにいてくれるデルフリンガー―― 自分の為に、これだけの想いを伝えてくれる人達がいる。 彼らから受け取った「心」こそが、自分の本当の「力」になるのだと言うことを、今のタバサははっきりと理解していた。 だから、一枚でも多く迷宮内に落ちているスタンドのDISCを探さねばならない。 今のタバサには一人で戦えるだけの力は無いのだから。 タバサが今、彼らの力を必要としているから。 ~レクイエムの大迷宮 地下二階~ 「……おかしい」 『うん?一体どうしたってんでい、タバサ』 「能力が……わからない」 デルフリンガーと共に大迷宮を探索して行く内に、既にタバサは何枚かのDISCを発見していた。 黄金色に輝く装備用DISC、紅に染まった射撃用DISC―― その中で、一つだけ発見した銀色の能力発動用DISCに対して、タバサは強い違和感を感じていた。 今までは、手に入れたDISCの正体やその発動効果は、漠然とであるが わかるようになっていた。だが、この銀色のDISCに限ってのみ、能力発動用の物ということ以外のことは、その能力が全く掴めなかったのだ。 そしてもう一つ、今まで見たことの無い、しかし“とてつもなくヤバイもの”であると感じさせるアイテムがあった。そのアイテムは辛うじて「発動用DISC」であると識別出来る銀色のDISCとは異なり、使い方や効果はおろか、どういうわけだかその姿形すら、手にしているはずのタバサにもハッキリとは理解出来ないのだ。 こんなことは初めてだ。 これらのアイテムを迂闊に使ってしまったら、それこそどんなことが起きるか予想も付かない。 拾ったタバサ自身も、発動用DISCや“ヤバイもの”を使うべきかどうか考えあぐねていた。 『わかんねえ、だと?』 「うん。……多分、この場所のせい」 曖昧な表現を用いてはいる物の、タバサは強い確信を以ってその言葉を口にしていた。 レクイエムの大迷宮には、今まで以上に大きな制約が掛かっている―― 先程、学生寮の部屋でシエスタから聞かされた話の中にそんな話があった。 恐らくこの銀色のDISCの能力が識別出来ないのも、そうした“制約”の一つなのだろう。 だが、一見些細とも思えるようなこの制約に、タバサはそれを仕込んだ“何者か”の強い悪意を感じ取っていた。まるで、そうとは知らずに遅効性の毒を飲まされて、長い時間を掛けてその身をジワジワと蝕まれ、自らの窮地を自覚した時には既に手遅れになっているかのような、そんな空恐ろしさすら感じるのだ。 この毒に飲み込まれぬように、注意を払い続けねばならない。 そんなタバサの内心を知って知らずか、デルフリンガーはフム、と頷いてから言葉を続ける。 『ちょっといいかい、タバサ』 「………何?」 『ちょっとオレにそのDISCを貸してくれねーかな。 いや、オレの体ん中に直接ソイツを差し込んでくれるだけでいーんだが』 「わかった」 タバサはデルフリンガーに言われた通りに、刃と一体の構造になっているデルフリンガーの鍔の部分に、正体のわからない銀色のDISCを差し込む。 『おー、こいつは……フムフム…なるほど、な』 そんなデルフリンガーの独り言を何度か聞く内に、もういいぞ、と言われて タバサはDISCをデルフリンガーの鍔からDISCを取り出した。 『わかったぜ、タバサ。 いやコイツの能力がってワケじゃねえが、そいつを識別するコトもやろうと思えば出来るな』 「……どういうこと?」 『前にも言ったかもしれねーが、オレっちの能力の中に「持ち主が触れてる武器の性能がわかる」って力があんだけどよ。その力がココに落ちてるDISCにも使えそうなんだな、コレが。 多分、そこにあるワケのわかんねーモンも、正体がわかるんじゃねーかと思うぜ』 タバサが手にしている“ヤバいもの”を指して、デルフリンガーが言う。 『まァお前さんが手に持ってるだけじゃわかんねーままだし、オレにDISCを差し込まれても同じだ。 ハッキリと意識して識別すっぜ!って思わねーと、まあ無理だね。それともう一つ』 そこで一旦区切ってから、今度は言葉の中に不敵な物を含めて、デルフリンガーが続ける。 『オレのもう一つの能力……受けた魔法を吸収するってヤツを応用すれば、DISCを 発動する時にそのパワーをギリギリまでアップさせられそうなんだわ。 ま、実際使う時はオマエさんの精神力も借りることになっちまうだろうが…… DISC一枚につき、一回こっきりの魔法の杖みてーな感じだな、こりゃ』 以前拾ったことのある「プロシュート兄貴のDISC」のような物か、とタバサは思った。 もっとも、あちらの場合はDISCを発動させた階層ならば永続的に効果があったものだが。 『オレっちの能力をいつ、どこで使うかってゆーその辺の判断は、タバサ、アンタに全部任せるぜ。 実際、制限云々を抜きにしても、マジでやるとしたら結構ホネが折れそうだしな』 タバサはこくりと頷いてから、デルフリンガーの言葉を胸の奥でもう一度反芻する。 識別と能力発動の強化、この二つの能力をタバサの任意に―― 使用制限が掛けられているとは言え、複数回に渡って行使出来るというのは、確かに心強い話だ。 だがそれには、デルフリンガー側の力の限界で回数制限がある。 ならば、彼自身が言う通りに、その力を借りるタイミングは慎重に決めなくてはならない。 そして今、タバサの目の前にあるのは全く正体のわからない“ヤバイもの”と、 それでも何とか発動用と言うことだけはわかっている銀色のDISC。 少しの間逡巡してから、タバサは決断する。 「これを識別して」 手に持った“ヤバイもの”を近付けるようにして、タバサはデルフリンガーに告げる。 『あいよ。んで、そっちのDISCは結局どうするよ?』 「使ってみる」 迷わずにタバサは言った。幸い、現在タバサ達がいる部屋には特に敵の姿は見受けられない。 ならばDISCの能力を発動させることで、その正体がわかるかもしれない。 その結果として大きなデメリットが生じるかもしれないが、敵のいないこの部屋の中ならば、少しはその危険も抑え込めるだろう。 この大迷宮の中では、いつ、どこで、何が必要になるかわからない。 出来る限り消耗は最小限に抑えなくてはならない。 その為に、今ここであまりデルフリンガーを消耗させる訳にはいかないのだ。 タバサは冷静にそう判断して、決断を下した。少なくともタバサ自身はそのつもりだった。 その中に「自分の一方的な意志でデルフリンガーに無茶をさせたくない」という気持ちが含まれていることに、彼女自身は気付くことすら無かったが。 『そんじゃ、いっちょやってみるとすっか。 ……ムムムム、迷宮に封じられし秘宝よ、今こそ自らを覆う神秘の影を拭い、その姿を現し給え…』 これから識別する“ヤバいもの”に向けて、わけのわからない呪文を唱えるデルフリンガー。 勿論、こんな言葉には何の意味も無い。ただのジョークか、もしくは精神統一の為の暗示に過ぎない。 デルフリンガーの性格を考えれば、間違いなく前者であろう。 そのことがわかっているので、タバサは何も言わずにその言葉を聞き流す。 『――タバサ』 「何?」 重苦しい口調でタバサの名を呼ぶデルフリンガーに、タバサはいつものように小さな声で問い返す。 『ちっとはツッコミを入れてくれよ……それがボケに対する礼儀ってヤツだぜ?』 「早くして」 『………へい』 タバサの冷たい一言に突き刺されて、デルフリンガーはがくりと気を落としたように答える。 そして、そうこうする内に“ヤバいもの”がほんの僅かに光ったと思った瞬間、タバサは次第にそのアイテムの姿形を正確に把握出来るようになって行く。 デルフリンガーの識別が、成功したのだ。 『フゥッ――終わったぜ、タバサ』 疲れた、とでも言うように、先程よりは少し気だるげな口調のデルフリンガーの言葉を受けてタバサが視線を片手の中の“ヤバいもの”に落とすと、既にはっきりと本当の形を彼女に見せていた。 「………紙?」 『おう。そいつは「エニグマの紙」っつってな。 これまた多少の制限はあるみてーだが、中に持ってる道具をしまい込めるらしいぜ』 「わかった」 折角だから試してみようと、タバサは拾った装備DISCの何枚かをエニグマの紙に近付ける。 すると―― 「!」 『な?オレの言った通りだろ』 不敵に笑うデルフリンガーの前で、タバサの手の中のDISCがエニグマの紙に吸い込まれて行く。 確かに、彼の言った通りの効果があった。 これは便利だ、とタバサはエニグマの紙の能力に心の底から感動を覚える。 だが、それは同時に、直接このエニグマの紙に何かがあれば、一度に大量のアイテムを失うことにもなりかねない危険性も含まれていると言うことである。 油断は出来ない。油断とは心の隙であり、その弱さを見せたら必ずそこを突かれてしまうものだから。 DISCを収めたエニグマの紙を懐に収めながら、タバサはこの大迷宮の中には決して「安心」などと言う言葉が無いことを、再び自らに言い聞かせることにした。 「……それじゃあ」 エニグマの紙と入れ替えにするような形で、タバサは銀色の発動用DISCを構える。 「使う」 『おう。気をつけろよ、タバサ』 「わかってる」 そう答えて、手に握り締めたDISCの正体を探るべく、タバサはそれを自分の頭の中に放り込んだ。 この銀色に輝くDISCは、何処か遠い世界で生きて来た人達の記憶を形にしたもの。 スタンドのDISCを装備する時に感じる、個々のスタンドが持つ「力の色」とはまた違う感覚。 発動までの一瞬に、元の持ち主がそれまで刻んで来た“記憶”がタバサの頭に流れ込んで来る。 彼らスタンド使いの扱うスタンドとは、使い手の精神をそのまま形に表わした鏡であり、タバサ達ハルケギニアのメイジにとっては密接不可分な、主人と使い魔の主従関係とはまた異なる存在である。 例えて言うならば、そう―― あの快活で可愛らしかったシャルロットと、今の自分の関係が近いのかもしれない。 ガリア王国の王家一族に生まれ、両親からたっぷりと愛情を受けて育った王女シャルロットは、母の精神が壊れてしまったあの時に、母と共に死んだのだ。少なくとも、今までタバサはそう思っていた。 だがそれでも、かつて自分が贈った“タバサと言う名の人形”を自分の娘だと信じ込んで、一人で守り続けているあの女性を、自分は母として守っていかねばならないとも感じている。 いつかシャルロットから全てを奪い去った者達に復讐を遂げ、母の心を取り戻せるその日まで、自分の感情など何もかもかなぐり捨ててでも生きていこうとした果てに、今のタバサがここにいる。 しかし、憎むべき者達に復讐を誓う為にタバサとして過ごして来た時間の中で、彼女は沢山の大切な人達に出会ってしまった。彼らと過ごした楽しい時間がタバサにはあった。 それは、どれだけ幸せな記憶であろうとも、あのシャルロットが決して持っていないものであり、今のタバサにとっては何よりも換え難い「誇り」なのだ。 母に愛されるべきシャルロットの名前を、自分が母に贈った人形と交換することで、母を守る人形としての役割を選んだタバサという少女が積み重ねて来た記憶は、もう悲しいだけのものでは無い。 彼女がタバサとして生きることを決めた時の、辛くて悲しい記憶しか目の前に待ち受けていなくても、母を守る為ならそれでも構わないと言う「覚悟」は、あの愛すべき人達の優しさによって覆されてしまったのだから。 シャルロットとしての過去。タバサとしての現在。 まるで二つの異なる人格が、ひとつの体の中に同時に存在しているようにも思える。 だが、それは違うのだ。 シャルロットが人を愛するということを、そしてその為の「覚悟」を、他ならぬ母からその身を賭して教えられたからこそ、今のタバサはどんなに苦しくても戦い続けることが出来るのだ。 シャルロットとタバサは今でも繋がっていて、決して切り離せるものでは無い。 「彼女」は違う誰かになってしまったのでは無いのだ。 過去は、殺せない。 そして今、ここで誰かの記憶が「DISC」として残されていること、それ自体には何も意味は無いのだ。 記憶は次々に積み重ねられて、いつだってその姿を変えて行くものだから。 例え去って行ってしまった者達がいたとしても、彼らが目指そうとした「意志」は、生きている者達の手によって受け継がれ、先へと進めていく為の確かな「力」となるのだから。 人間の記憶とは、このDISCのように「形」として残されたままのものでは無いのだから―― DISCから記憶を引き出し、自分の力とするというのは、即ちそういうことでは無いかとタバサは思う。 過ぎ去っていった者達の記憶に触れることで、生きている自分が現在を歩んでいく為に必要とする力。 何処かの世界の誰かから力を分けて貰う為に、今、DISCの記憶をタバサは全身を通して感じていた。 見覚えのある風景。タバサも良く知っている場所。トリステイン魔法学院だ。 ああ、この記憶の持ち主は、私の知っている人。 タバサはより深く意識をDISCに刻まれた記憶に同調させる。 ――私は「ゼロ」なんかじゃない! 悲痛な叫びが聞こえる。誰よりも誇り高くあらんとしながらも、その誇りを奪われた者の叫び。 当たり前のことを、当たり前に出来る者達に対する嫉妬と羨望。自分にはそれが出来ないという焦り。 厳格で、それ故に常に自省と研鑽忘れぬ父と母、そして一番上の姉に対する畏怖と尊敬。 自らもまた弱さを抱く故に、常に自分を優しく抱き締めてくれるもう一人の姉への思慕。 生まれながらに重い使命を背負った最愛の友人に対して、その身を深く案じる深い友情。 かつて憧れていたはずの人が、己自身の野心の為に邪悪へと染まってしまった時の悲しさ。 そして、自身が召喚した使い魔を初めて目にした時の失望と―― その使い魔へと自分が惹かれて行くことへの、心地良さと戸惑いの同居。 彼自身に対する侮蔑の気持ちが、尊敬と信頼に満ちたものへと変わって行くのがわかる。 彼が他の女性に惹かれる姿を見た時の、狂おしいまでの渇きと怒り、不安、虚無感。 その人の記憶に、タバサは確かに覚えがあった。 誰にも認められることなく、しかしそれでも、決して諦めずに己の道を精一杯に歩き続ける人。 厳しさの裏に、人に対する深い優しさを胸に秘めている彼女のことを、タバサは知っている。 同じ魔法学院に通う同級生として、お互いに少しずつ打ち解け始めているクラスメイト。 ハルケギニアで離れ離れになってしまって以来の、タバサの友人の一人である、彼女の名は―― 『サイトの……ばかぁぁぁぁーーーーーーーーっ!!!!』 ――ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。 どんな魔法を唱えても爆発しか起こせない彼女の、またの名を「ゼロのルイズ」。 彼女の記憶を形にしたDISCの発動による大爆発に呑み込まれながら、 タバサはクラスメイトの一人である彼女の名前を懐かしく思い返していた。 「………けほっ」 タバサの吐く息から、黒い煙のような物さえ立ち上っているように見える。 折角シエスタが身繕いを手伝ってくれたと言うのに、これでまた自分の服はボロボロだ。 今度会ったら謝らなくてはいけないな、とタバサはまるで人事のようにそんなことを考えていた。 『ンゲハッ!ゲホゲホッ!い、いっきなし爆発するなんて、まったくオレ様ホンキでおでれーたぞ!?』 「……両方、やっておけば良かった」 タバサはいつも通りに感情の感じ取れない声で、そう呟いた。 発動と同時に爆発を起こすDISC、それが「ルイズのDISC」の能力だったのだ。 『ウーム。しょっぱなからこんなんじゃあ、こりゃもう拾ったDISCを 片っ端から調べてった方がいいかもしんねーなぁ』 冗談めかしているが、デルフリンガーが心の中では本気でそう考えているのは明白だった。 出来るならばタバサだってそうしたい。だが、その為に必要なデルフリンガーの力にも限度はある。 学生寮の部屋でシエスタから貰った「ゼロの使い魔」と銘打たれた本で、デルフリンガーの力を回復出来るというが、この先の探索でそれが見つかると言う保証は無い。 このレクイエムの大迷宮の攻略において、デルフリンガーの持つ能力は貴重だ。 出し惜しみをしたまま力尽きてしまっては本末転倒だが、かと言って無駄な浪費もまた愚の骨頂である。 だからタバサは、考えていたことを素直にデルフリンガーに言うことにした。 「そうかもしれない……でも、それは無理」 『だよなぁ……あーあ、どっかにオレの力を使わなくても識別が出来るDISCとか無いもんかねぇ』 「……あると思う。多分」 『お、自信がありそうだな。何か根拠でもあるのかよ?』 「ただの、勘」 『ありゃま。勘ねぇ…期待して損した、って言いたいトコだが、マジでありそうなのが微妙にムカつくぜ』 「どうして?」 『そりゃ当然!オレ様のアイデンティティーの一つが失われちまうからだよ。 DISCだのアイテムだのを識別すんのはオレ様だけの特権!こんなカンジじゃねーとな』 「……でも、あなたが疲れる」 『そこなんだよなぁ。ま、どっちにしろこの世界から抜け出せりゃあ、何だろうと構いやしねーか』 「うん」 『それじゃ、とっとと次へと行くとしようかい』 デルフリンガーの言葉に頷いて、タバサは前に向かって一歩を踏み出した。 だが、その瞬間、カチリという音と共に、階層全体に届くかのような大きな声が響き渡る。 「あ」 『タバサはここよッ!ここにいるわよォーーーーーッ!!』 今いる階層にいる全ての敵に、タバサの現在位置を知らせてしまう「エンプレスの罠」が発動する。 この罠のせいで、間も無くこの階層の全ての敵がタバサに向けて殺到することになるだろう。 『……おい、タバサ。ひょっとして、これってスゲーピンチなんじゃねーのか?』 「うん。……これから、ピンチになる」 言葉の内容とは裏腹に、冷静な顔でタバサは答える。こうなってしまった以上は焦っても仕方が無い。 タバサはこれから姿を現すであろう敵を、一つ一つ叩いて先に進んで行かねばならないのだから。 『――お!』 「ううう…何故か知らねェが、妙にノドが渇くぜェ……なあぁ~…?」 『ちぃッ、早速お出ましかよ!?――タバサ!』 デルフリンガーの声に振り返って見れば、通路の奥から 小汚い浮浪者と言う風体の男が近付いて来る。だが、目の前の男は“ある力”によって、人ならざる吸血鬼に――ハルケギニアのそれよりも、遥かに凶暴な怪物としてその身を変えている。 タバサは一気に距離を詰めるべく、小汚い浮浪者に向けて一気に駆け出して行く。 「あったかい血ィィィ~……ベロベロ飲みたいィィィ~~~!!」 そういえば、と走る中でタバサはふとハルケギニアからこの世界に来る直前のことを思い出していた。 未知の古代遺跡の探索の途中で、ルイズやキュルケ達と共に遺跡を守護するガーディアン達と戦い、それっきりデルフリンガー以外の面々とは離れ離れになったままだ。 皆は今、一体何をやっているのだろう。 ひょっとしたら今でもあの遺跡で戦い続けているのかもしれない。 相棒のデルフリンガーをこちらに持って来てしまったが、彼の相棒の平賀才人は大丈夫だろうか? 魔法を唱えれば全て大爆発を起こしてしまうルイズは、ちゃんと無事でいるだろうか。 今までまともに魔法が使えなかったルイズが、今までどんな想いをして戦って来たのか―― タバサには今、彼女の気持ちが少しだけわかったような気がしていた。 「あなたも、頑張って――ルイズ」 タバサは口の中で、今は離れ離れになってしまった友人に向けてそう呟く。 「――ザ・ハンドっ!!」 そしてタバサは装備用DISCのスタンドを開放し、目の前の敵に向けてその力を目一杯に叩き込んだ。 ゼロの奇妙な使い魔「タバサの大冒険」 To be continued… 第4話 戻る
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ユカリベ唯さん製作のRPG レディパールに登場する タバサさん。唯さんのホームページはココ↓ 万泊後宴
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誓いの儀による最大パワーアップ後 HP:6332 攻撃力:2224 魔法力:3736 速度:561 【キャラクター】 属性:火属性 レアリティ:☆☆☆☆☆(悶絶レア) 入手手段:常設プレミアムガチャより、一定確率で排出(2017/10/9~)【ガチャ寸劇】 種族:クトゥグア CV:橋本 ちなみ 呼び方:【自称】私 【魔王】魔王様 【その他】ミル(ミル) 限定版:夏祭り タバサ(18年7月おまつり満喫!限定ガチャ) 公式モン娘紹介: 『生ける炎』と呼ばれる、クトゥグア族のモン娘。全身が火炎で形作られている。 その名の現す通り生きている炎のモン娘であり、人型に見えるのも火炎で模倣しているに過ぎなく、炎そのものである存在。 感情と火炎の温度が連動している彼女は、誰かを強く想う程に激しく燃え上がるのだとか…!? 関連イベント: スペシャルクエスト 「宇宙魔界大騒動!」…銀河魔界帝国に対抗するレジスタンスのメンバー。ココナやパイロット シェパナが帝国に追われているのを助けたことをきっかけに、一緒に活動するようになったとのこと。ナシュワとルゥルゥに絡まれた大魔王一行を助けたことが縁となり、共闘して銀河帝国に立ち向かう。寸劇内でお試しおさわりタイムが設けられていたりするなど、実質このイベントのメインヒロインといっていい扱い。 「フェニックス降臨!」…遺跡魔界を訪れていたところで、カトレアの羽根探しをしている大魔王一行とばったり。同じ火炎のモン娘同士とあってタバサの炎を試してみるカトレアだったが、他人に触ってもらえたことに感激したタバサが文字通り爆熱ヒートアップ。カトレアはあえなくギブアップ。 「モン娘クリスマス2017」…クリスマスパーティで七面鳥を焼く係に。 「魔界わっしょい音頭祭」…(→夏祭り タバサ) 【スキル】 ☆5 スロット スキル名 スキル効果と最短リキャスト L 生ける炎 火属性モン娘の魔法力が増加(大)、土・水属性のダメージを軽減(中) -- S1 フォーマルハウトの紅炎 敵全体に防御力無視の火属性/魔法攻撃(大+)を与える 8 S2 灼熱の抱擁 敵全体に火属性/魔法攻撃(大)を与え、しばらくの間、味方モン娘の攻撃力減少と魔法力減少を無効にする 9 S3 燻り狂う渇望心 現HPの10%と引き換えに、味方の攻撃力を上昇(特大)させ、敵全体の攻撃力を減少(大)させる 10 ☆6 スロット スキル名 スキル効果と最短リキャスト L 生ける炎 火属性モン娘の魔法力が増加(大)、土・水属性のダメージを軽減(中) -- S1 フォーマルハウトの降臨 敵全体に防御力無視の火属性/魔法攻撃(特大)を与える 8 S2 灼熱の抱擁 敵全体に火属性/魔法攻撃(大)を与え、しばらくの間、味方モン娘の攻撃力減少と魔法力減少を無効にする 9 S3 燻り狂う渇望心 現HPの10%と引き換えに、味方の攻撃力を上昇(特大)させ、敵全体の攻撃力を減少(大)させる 10 ☆6 誓いの儀でパワーアップ後 スロット スキル名 スキル効果と最短リキャスト L 生ける炎 火属性モン娘の魔法力が増加(大)、土・水属性のダメージを軽減(中) -- S1 フォーマルハウトの降臨 敵全体に防御力無視の火属性/魔法攻撃(特大)を与える 8 S2 灼熱の抱擁 敵全体に火属性/魔法攻撃(大)を与え、しばらくの間、味方モン娘の攻撃力減少と魔法力減少を無効にする 9 S3 燻り狂う渇望心+ 現HPの10%と引き換えに、しばらくの間味方の攻撃力を上昇(特大)させ、敵全体の攻撃力を減少(大)させる 10 【寸評】 火属性魔法タイプ。スキルの威力はいずれも高いがその分リキャストは若干重く、重戦車タイプ寄りといったところ。 s1は防御無視、特大威力の全体攻撃。メインウェポン。 s2は全体大威力攻撃に加え、味方の攻撃低下と魔力低下を防ぐ。使いどころはえらぶがうまく敵の動きを読めれば強力。 s3はHP10%の自傷ダメージと引き換えに、全体攻撃デバフと味方に特大攻撃上昇を付与する。 味方の物理スキルや複数攻撃バフなどと合わせて使えば相当強力。通常攻撃だけでも意外とばかにならない威力が出る。 スキルの効果はいずれも強力だが、リキャストの重さと、複数の効果が付属するためにオートで暴発して弾切れになりやすいことから、 マニュアル操作向けのキャラ。使いどころをしっかり見極めれば非常に頼もしい火力・サポート要員となるだろう。 立ち絵: 関連: ミル(友達) ラザニア(ガチャで同時リリース) 【コメントフォーム】 表情はクールだが、まあ情熱的である。大騒動!のときのヒロインっぷりに心打たれた人も多いだろう。タバサのために火属性耐性を鍛え、「耐性まで鍛えられるのか」と話題になったのは有名な話。 -- 名無しさん (2019-03-24 03 49 31) ところで誓いの儀に使う指輪は魔王様の魔力が通っているらしく、ちゃーんと耐えられる。さすが魔王様だぜ! -- 名無しさん (2019-03-28 23 34 05) ほんとに余談だけど、お船の方によーく似た娘がいて一時期ダブって見えたことも。どちらも守ってやりたくなるところは変わらないな。 -- 名無しさん (2019-04-14 02 09 53) 名前 コメント
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タバサ プロフィール 代表優勝キャラ1 第500回頃優勝していたプレイヤー。 優勝回数は少ないが強キャラを叩き出す腕を持ってるようだ。
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「うきゅーボン!」 ドラクエにおけるタバサ 主人公と妻の間に生まれる双子の娘でグランバニア王女。 SFC版はワンレンでリボンなし、リメイク版はおかっぱにリボンという髪型の少女。 母親により髪色は異なる。 家族の中で唯一短髪である。 主人公が行方不明になった数年後、サンチョや男の子と共に主人公たちを捜す旅に出る。 その旅で石化していた主人公をストロスの杖で救い出した後パーティーに加わる。 年齢は男の子と同じ8-10歳。 男の子を普段は「お兄ちゃん」と呼ぶが、文句を言う時などは名前で呼ぶ。 またお兄ちゃん子(ブラコン)の様相を強くうかがわせ、結婚するとまで発言している。 天空城が上がった際のセリフから高所恐怖症だと思われる。 性格は甘えん坊なところもあるが、ちょっとだけ大人びたところもあるおませな少女。兄とは対照的に冒険はやや苦手で泣くことも多少あるが、父や兄の力になりたい一心で冒険を続ける健気なところもある。お酒の匂いや酔っている人が嫌いで、詩人に惚れる傾向があり「お父さんの声もステキだけど、詩人さんには負けるかな」と言い、詩人であれば酔っていてもあまり嫌悪しない。 兄と同じ天空の勇者の子孫だが、天空の武具を装備したり勇者と呼ばれることはなく、兄の「勇者」としての大きな責務を自分がともに背負うことができればという実直な優しさを持つ。 その一方で専用武具を持っていたりチヤホヤされる兄をうらやむ一幕も。 いとこおばであるドリスと仲が良く、逆にいたずら好きでワガママなラインハットのコリンズ王子とは馬が合わない様子。 リメイク版では動物や魔物、幽霊などの気持ちがわかるなど祖母マーサや父の能力を強く受け継いでいるが、魔物の邪心を払えるまでには至っていないらしい。 主人公が石化されている事も「小鳥さんに聞いた」と言い、その対策としてストロスの杖を用意したという。また敵である魔物も「魔物さん」と呼び、「魔物さん大好き。だから戦うのはちょっとつらいの…」と言うが、その一方で魔物が脅威である世界の状況を強く認識し、戦いをためらう事はない。 邪悪な存在や場所の発する悪意の波動を感じて怯えることや、頭痛を起こすもある。 武器はムチ類を得意とするが杖や剣も装備できる。ちからが低く打撃攻撃は父や兄には負けるが母には勝る(デボラを除く)。防具はドレスやローブなどを装備できる。重い物は装備できない。 ある王冠を入手後「重いの頭に乗せてると、大きくなれないからいらない」と言う。母親たちが装備不可な水鏡(みかがみ)の盾も装備できる。 また、ビアンカ以外の人物で唯一ビアンカのリボンも装備できる(母親がビアンカの場合はもちろん、フローラやデボラでも装備できる)。 ちからの伸びは悪いがそれ以外の能力値はかなり高く、父や兄にひけを取らない。 イオ系・ヒャド系の全体攻撃呪文とドラゴラムを覚えるほか、バイキルト・マホカンタなどの補助呪文やフィールド呪文ルーラ・リレミト・ラナルータを覚える。 補助呪文は母親たちとかぶっているものもある。 『モンスターバトルロードII』では男の子と共にプレイヤーの分身として使用可能。 まさクエにおけるタバサ レックスと違って、しっかり者である。 しかし、泣き出す事もある(まさクエが始まる前の頃) まさクエが始まる前は、ムーンブラック団に呪いをかけられ、リスにされた事がある。 ゴリスマにおけるタバサ リアル告からお小遣いをもらっている。 リアルうたとは犬猿の仲。
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前ページ次ページゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐ 夜、タバサはルイズの部屋に来ていた。 正確にはキュルケに無理矢理連れて来られたのだが。 部屋には他に住人であるルイズと、その使い魔もいる。 部屋の中央で、ルイズ達は剣について言い争いをしている。 そんな彼らから離れ、タバサはベッドに座り今日購入した本を広げていた。 ―― モスラヤ モスラ ドゥンガン カサクヤン インドゥムゥ ルスト ウィラードア ハンバ ハンバムヤン ランダ バンウンラダン トゥンジュカンラー カサクヤーンム ―― ふと、本から目を離すと、二人が杖に手をかけているのが見えた。 「言ってくれるわね、ヴァリエール」 「なによ、本当のことでしょ?」 タバサはすぐに杖を素早く振るった。 こんな場所であの爆発魔法を使えば危険である。 つむじ風が舞い上がり、キュルケとルイズの手から杖を吹き飛ばす。 「室内」 杖を飛ばされ、こちらへ視線を向けた二人に一言呟く。 「なによあんた。さっきからいるけど」 「あたしの友達のタバサよ」 「何であんたの友達が……タバサ?あのうるさい鳥の飼い主の?」 ルイズが忌々しげに呟く。 それを聞くと、タバサは本に向けようとしてい視線をルイズへ向け、睨みつける。 「鳥じゃない。みんな私の友達」 「何でもいいけど静かにさせなさい。こっちは夜中にあいつらが騒ぐせいで睡眠不足なのよ」 「それは無理。あの子達は夜行性。だから夜に活動する」 「うるさいうるさいうるさい!とにかく黙らせるなり逃がすなり殺すなりしなさいよ!」 ルイズはタバサの言葉に思わず叫んだ。 それを聞いた瞬間、タバサは勢いよく立ち上がり、ルイズに自分の身長よりも長い杖を向けた。 タバサの瞳の色は、氷のような青からギャオス達と同じような赤い色に染まっていた。 その様子に脅えながらも、ルイズは強がりながら尋ねる。 「な、何よ?言いたいことがあるなら言いなさいよ」 タバサは一言言い放つ。 「あなたに決闘を申し込む」 その様子を見て、才人は嫌な予感がしてきた。 「もちろん、使い魔同士で」 嫌な予感は的中してしまった。 タバサの言葉を聞くと、才人は慌ててルイズを説得し始めた。 「ルイズやめてくれ!俺がギャオスに勝てるわけないだろ!」 才人はギャオスの恐ろしさを知っている。 元の世界で何回か映画を見ているからだ。 「タバサもやめなさいよ。いくらゼロのルイズの使い魔でも、殺したらダ……」 キュルケも説得を試みるが、タバサに睨みつけられ何も言えなくなった。 そんな二人の様子を見ても、ルイズは頷いた。 「望むところよ。誰が逃げるもんですか!」 本心は逃げたい。自身などあるわけがない。 でも、こんな小さい子供?に決闘を挑まれては引き下がれない。 ルイズの返事を聞くと、タバサはすぐに窓を駆け寄り、口笛を吹いた。 口笛が辺りに響き、窓の外が一瞬で漆黒に染まり、叫びが聞こえてくる。 「この子達の力、見せてあげる」 前ページ次ページゼロの使い魔外伝‐災いのタバサ‐
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~水の都 1F~ 「う………」 一体何が起きたのか。意識を取り戻したタバサは、起き上がって現在の状況を確認する。 取り立てて、体に異常は無い。手足もちゃんと動くし、目も耳も聞こえる。 どうやら死んではいないらしい。ここが天国だとか死後の世界だと言うなら話は別だが。 しかし、それ以上に大きな問題があった。 「ここは……」 一体何処なんだろう?見たことも無い場所だった。 先程までタバサがいた石造りの遺跡とは全く違う。 少々薄暗い物の、それでも建物が整然と立ち並び、縦横無尽に水路が走っている様は、どうやら人間の暮らす街のようだ。 しかし最も違和感を覚えたのは、肝心な人間の気配が全く感じられないという事だった。 あの遺跡の扉の先が、今のこの場所に繋がっていたのは間違い無い。 だが、辺りを見回してもあの扉はまるで見つからない。 まるで最初から存在していないかのようだった。 ――となれば、考えられることは一つしか無い。 ここは、異世界なのだ。 あのゼロのルイズの使い魔が、ハルケギニアとは違う「チキュウ」とか言う世界からやって来たらしいと言うのは、既にトリステイン魔法学院の誰もが知っていることだ。 そして誰もがそのことを半信半疑に思っていたのだが、既に何度か―― あの「竜の羽衣」を始めとして、本当に才人が異世界の人間であることを示すような出来事も起こっており、タバサも異世界の実在を認めても良いだろうと考えていた。 だが、実際に自分が異世界を訪れる羽目になるとは思わなかった。 ここから元のハルケギニアに帰る方法が、果たして本当にあるのだろうか。 今のタバサには皆目検討も付かない。 「…………また」 また、一人ぼっちになってしまった。 そして孤独な自分が唯一頼るべき魔法の杖も、あの遺跡に置き去りにしたまま無くしてしまった。 今まで生きて行く為に振るって来た魔法も、杖が無くては唱えることすら出来ない。 「―――……っ」 不安と孤独、そして絶望が、タバサの胸に去来する。 見ず知らずの世界に、戦う力も奪われて、たった一人取り残されてしまった。 こんな気持ちになったのは、自分や両親の存在を疎んだ伯父の手によって、家族を失った時以来だろうか。あの時以来、タバサは伯父の一族に対して復讐を誓った。 伯父が自分を抹殺する為に、苛酷な任務を度々与え続けた時も、タバサはそれを乗り越える為に、戦って、戦って、戦い抜いた。 いつか復讐を遂げるその日まで、誰にも負けないように魔法の力を高め続けて来た。 それが今までタバサがハルケギニアで過ごして来た15年間の全てだった。 だがタバサは今、全てを失ってしまった。 一体今の自分に、何が出来ると言うのだろう。魔法一つ満足に使えない、無力なこの自分に? 平賀才人がルイズに召喚された時も、こんな気持ちになったのだろうかと、タバサは改めて思う。 自分にはもう、何も残されていない。そう、この世界にやって来た時から―― 「あ」 思い出した。タバサの他にも、一緒にこの世界へと飛ばされて来たであろう相手が一人いたでは無いか。いや、一人では無くて一本と呼ぶべきだろうか。 知恵を持つ剣、デルフリンガー。彼がここにいるなら、自分は一人じゃない。 一人じゃないなら、きっと大丈夫。 今までも一人で生きて来られたのだから、一人と一本ならもっと凄いことだって出来るかもしれない。 そうだ、こんな所でくじけている場合じゃない。 自分には、ハルケギニアに帰ってやらなくてはならない事があるのだから。 先程までの不安げな様子など微塵も感じさせぬ態度で、タバサは改めて周囲の様子を探り始める。 そうこうして行く内に、お目当てのデルフリンガーこそ見つからなかった物の、幾つか新しい発見があった。 一つは、地面に落ちていた黄色い円盤だった。 今までタバサの見た事の無い物であり、一体何に使うのかも皆目検討が付かない。 だが、その円盤に書かれている文字だけは、タバサにも理解出来た。 「エコーズAct.3のDISC」。それが何を意味している言葉なのかはわからないが、ここから考えられるのは、この円盤は“DISC”という名前であること。 そしてこの“エコーズAct.3”以外にも、色々な種類のDISCがあるのでは無いかということ。 この二つだけだ。 もう一つは、何故か自分が持っていた大盛りのはしばみ草のサラダ。 勿論こんな物を持って来た覚えは無い。 これを発見した時は流石にしばらく悩んでしまったが、気味が悪いからと言って自分の好物を捨てるのも気が引ける。後で、お腹が空いたら食べることにしよう。 そして最後に、地面のど真ん中に設えてある下層方向への階段。 他の道は全て行き止まりであり、これ以上何かを探すとしたら、この先へ進むしか無い。 よし。タバサは覚悟を決めて、階段に向けて一歩を踏み出す。 「……待ちやがれェェェェ~~~!!」 突然、呼び止められて振り向いてみれば、そこには怪しい風体の中年の男性。 片手にナイフを、もう片方の手に古ぼけたコートを握り締めている。 せわしなく動く瞳の色を見れば、麻薬か何かで明らかに冷静な判断力を失っているのがわかる。 「オレっちのコートをギろうなんていい覚悟だなァァァァ~~テメェェェェ~~~!!」 タバサの羽織っているマントをコートと勘違いしているのだろうか。 片手のナイフを振り回しながら、ヤク中のゴロツキが喚き散らしてにじり寄ってくる。 まずい。魔法の杖を持っていればどうと言う事の無い相手だが、今の自分は魔法が使えない。 小柄なタバサと、刃物を持った男では、どちらが有利か考えるまでも無かった。 「…………っ!!」 ――だったら、イチかバチか階段の先まで逃げるしか無い。 咄嗟に判断して、タバサは階段に向けて一直線へと駆け出して行く。 だが。足元に何かを踏みつけたような違和感を感じた刹那、タバサの足が動かなくなる。 「!?」 良く見れば、足元に仕掛けられていたトラップを、思い切り踏みつけている自分の足。 そして、それが踏み付けた者をその場に固定する「クラフトワークの罠」である事が、 理屈を抜きにしてタバサには瞬時に理解出来た。 「ひ、ひ、ひェ~ッヘッヘッヘェ!もォ逃がさねぇぞォ、テメ~~~!!」 何とか後ろを振り向くことは出来た。 だが、そこではもうヤク中のゴロツキがナイフを振り下ろそうとする姿が目の前に見えるだけだった。 「あ……っ!!」 もう駄目だ。自分はあのナイフに貫かれて、誰にも知られぬままにこの世界で命を落とすのだ。 タバサの脳裏に、この後訪れるであろう自分の最期の姿が浮かび上がる。 だが、苛酷な任務の日々の中で生存の為のセンスが刻み込まれたタバサの体は、反射的にヤク中のゴロツキに向けて最後の抵抗を試みる。 先程拾ったDISCを手に、ヤク中のゴロツキに叩きつけようとする。 「ぐェッ!?」 タバサの決死の反撃が見事に功を奏し、DISCがヤク中のゴロツキの腕にブチ当たる。 それによって、ヤク中のゴロツキのナイフは辛うじてタバサの顔を掠めるに留まり、 そしてタバサが手にしていたDISCは反動によってタバサの方に投げ飛ばされ、そして―― 「え……?」 ズブズブと音を立てているかのように、タバサの頭の中にDISCが沈み込んでいく。 何が起こったのか、タバサには一瞬理解出来なかった。 だが、それを理解するよりも早く、タバサのすぐ側からもう一つの声が響いて来る。 『Act.3、FREEEEZE!!』 「ウゲッ!?」 そしてヤク中のゴロツキに向けて人間の拳の形をした何かが振るわれ、ヤク中のゴロツキの姿を撃つ。 「よ、よくもヤリやがっ……ンガァ!?」 突然、ヤク中のゴロツキの体がズシリと地面に埋もれ、まるでその場だけ重力が倍になったかのようにヤク中のゴロツキの動きがスローになる。 『射程範囲5メートルニ到達シテマス。コレデモウテメーハ飛行機ノシートヨリモスローニシカ動ケネェ」 「ウグググ……」 『ソシテ!スローニナッタ隙ニ殴リ抜ケル!S・H・I・T!!』 「ウッゲアァァ~~~~!!」 ヤク中のゴロツキが満足に動けない所に、更に一方的に拳が振るわれる。 そして何発も拳を打ち込まれ、最後には悲鳴と共にヤク中のゴロツキの姿が掻き消えていった。 『危ナイ所デシタネ。モット早ク私ヲ装備シテイレバ、コンナ事ニハナラナカッタデショウニ』 ようやくクラフトワークの罠から解放されたは良いが、未だに状況を掴めずに眉を顰めているタバサを無視して、拳を振るった“主”は宙に浮いたまま一人で延々と喋り続ける。 『マ、コンナ連中モ数ガ集マリャ割ト厄介ダッタリスルンデスケドネ。Bi―――tch!!』 「……あなたは」 『ン?』 「あなたは誰?」 タバサの質問に、人間と同じ二本の手足を持つ―― しかし、その容貌は明らかに人間とは異なる“それ”は、宙に浮かんだままタバサの方を見やる。 『フム。「スタンド」ノ「DISC」ヲ知ラナイッテコトハ…ドウヤラ、ココニ来ルノハ始メテナノデスネ?』 “それ”の言葉に、こくりとタバサは頷いた。 『私ノ名ハ「エコーズAct.3」、「スタンド」デス。アナタガ今装備シテイル「DISC」ハ「スタンド」ヲ形ニシテ装備出来ル様ニシタ物デス』 スタンドにDISC。これまた聞いたことの無い言葉だったが、魔法を実際に形として見ているような物だと思って間違い無さそうだとタバサは思った。 さしずめDISCは、スタンドを使う為の魔法の杖と言う所だろうか。 「……ここはどこ?」 『ココハ「レクイエムノ大迷宮」ヘ至ル為ノ通過点デス。 コノダンジョンノ最深部ニ行カナイト「レクイエムノ大迷宮」ニハ辿リ着ケマセン。 ソシテ「レクイエムノ大迷宮」ヲ突破シナイ限リ、コノ世界カラハ出ラレマセン』 「!」 レクイエムの大迷宮とやらに辿り着けなければ、この世界からは出られない。 それはつまり、その場所に行く事が出来ればハルキゲニアに帰ることが出来るという事だ。 「……本当に?」 『本当ト書イテマジデス。Ass Fuckin!』 元の世界に帰る方法がある。エコーズAct.3の言う事が何処まで本当かどうかはわからないが、それは実際に行ってみればわかること。 何一つ手掛かりの無かった先程までよりは、遥かに状況は好転している。 目標がはっきりと定まっているなら、迷うことは無い。 後はそこへ向けて、全力で歩き続けるだけでいいのだから。 「………レクイエムに、行く」 そう呟いて、タバサは次の階層を目指して階段を降りて行った。 ゼロの奇妙な使い魔「タバサの大冒険」 To be continued… プロローグ 戻る
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『参ったねえ、こりゃ実に参った』 手に握り締めた知恵ある剣、デルフリンガーが何度目とも知れぬ愚痴を漏らす。 ここはハルケギニアと呼ばれる世界。 トリステイン魔法学院に在学する学生達に、遺跡調査の依頼が舞い込んで来た。 それ自体は、決して珍しい話では無い。 魔法学院に通うメイジ達とは例外なく貴族の家系であり、彼らはいざともなれば習得した魔法を駆使して、他国との戦争の為に激しい戦場に立たねばならない。 学問や魔法の研究、そして武者修行の為に、魔法学院の学生達は日々の授業以外にも命の危険を伴う冒険に挑む必要があるのだ。 今回もそうした――危険ではある物の、ありふれた冒険の一つのはずだった。 『よお、これからどうする。先に進んじまうか、連中を探すか、どっちだい』 遺跡を守護するガーディアンとの戦いに気を取られ、仕掛けられていたトラップを見抜けなかったのは自分のミスだった。結果として、一緒に遺跡までやって来た仲間達と離れ離れになってしまい、今この場にいるのは自分と、そしてデルフリンガーの一人と一本。 一刻も早く仲間達と合流し、任務を終えてこの遺跡を脱出する。 果たさねばならない目的の数はたった3つ。口で言うのは簡単だが、かなり困難な話である。 今、自分は何処にいるのか?仲間達の位置は?遺跡を守るガーディアンやトラップの存在は? 目的に対して問題は山積み。 もし一人でこの遺跡に訪れていたとしたら、気にする事は無かっただろう。 だが、仲間達を放っておくわけにはいかない。彼らは、孤独だった自分に出来た初めての友達。 死と隣り合わせの戦場でも、笑って肩を並べてくれる、かけがえの無い人達。 父を殺され、母を狂わされ、自らもまたトリステイン魔法学院での過酷な任務の中で惨死することを望まれた、あの可愛そうなシャルロットは、もういないのだから。 『なあ、タバサ――』 「皆と合流する」 タバサはいつも通りのか細い声で――しかしはっきりと意思を込めて声に出した。 『んぉ?お、おう、わかった。しっかしおどれーたぜ、あんたがちゃんと返事をしてくれるなんてよぉ?』 それっきり返事は返さない。決してデルフリンガーのことが嫌いな訳では無かったが、必要の無いこと以外は、あまり喋りたくは無かった。 それは、誰に対しても変わらない、他人へのタバサの接し方。 ――しかし何故、自分はこのインテリジェンスソードを持っているのだろう? これは彼女のクラスメイト、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ヴァリエール―― 通称「ゼロのルイズ」の使い魔が使っている筈の剣なのに。やはりこの剣は異世界から来たというその使い魔の青年、平賀才人の手に握られているのが良く似合う。 まあ、いい。武器を失う羽目になった才人のことは気になるが、 彼やルイズの側にはタバサの頼れる親友キュルケや、少々お調子者だけど召喚魔法の技術は確かなギーシュと言った仲間達がいるはず。 自分は彼らの無事を信じて、「早くデルフリンガーを返したいなあ」と考えていればいいのだ。 『んじゃ、合流すると決めたからにゃ、どっちに行くよ?右か?左か?上かい下かい?』 「……………」 タバサは黙って歩き始める。途中途中で、魔法を使って自分が通ったというサインも残しておく。 他に良い考えがある訳じゃなかったが、向こうもこちらを探しているなら、きっと大丈夫。 例えすぐには会えなくても、互いに強く「探そう」「会いたい」という意志を持って 歩いているなら、いつかは必ず再会出来るはずなのだ。 何故なら、自分達はお互いに向かっていっているのだから――。 『……おっ。こりゃどーも、順序が逆になったみてぇだな』 デルフリンガーの言葉に、タバサもこくりと頷く。 彼女達の目の前に立ち塞がる扉は、これまで散々遺跡の中で見続けて来た石造りの物とは違う、金属とも有機物とも付かぬ物質で作られている奇妙なデザインの扉だった。 まるで扉自体が何かの生き物であるかのように、巨大で禍々しい力すら感じ取れる。 この扉を開いたが最後、何が起こるのか――そうしたイメージすら封殺してしまう程の凄味があった。 そう。間違いなく、この扉こそがこの遺跡に眠る最大の「何か」なのだろう。 『どうする、タバサ?』 「……………」 一人でこの扉を開けてしまって大丈夫なのか?出来るなら、仲間達と合流したい。 この扉の先に何があるのかわからない以上、迷いはある。 ――だが、逆に。 逆に考えるなら、今ここで自分一人で扉を開いてしまえば、皆を巻き込まなくて済むのかもしれない。 その為に例え自分が命を落としたとしても、仲間達だけは助けられるかもしれない。 今まで歩いて来た中で、別の道は無かった。後戻りか、扉を開いて先に進むか。二つに一つ。 「………開ける」 決然とした口調で、タバサは言う。デルフリンガーを鞘に収め、自分の杖と一緒に脇へ置いておく。 そして、その小さな手を目の前の扉に掛け、精一杯の力を込めて開こうとする。 ゴトリ ――扉は、あっけない程簡単に開いた。 そしてその刹那、タバサは何か目に見えぬ圧倒的な力によって、凄まじい勢いで扉の中に引き摺り込まれようとしていた。 『――タバサ!』 「…………!!」 なけなしの力を振り絞って、タバサは声を頼りにデルフリンガーを掴む。杖は、間に合わない。 そして一人と一本は、扉の中へと吸い込まれて行く。 やがて意識を失うその直前、タバサは確かに誰かの声を聞いた気がした。 「――大迷宮へ……そして君の試練へ……ようこそ……――」 ゼロの奇妙な使い魔「タバサの大冒険」 To be continued… 戻る